「きぞん」か「きそん」か
「既存建築物」という言葉が建築設計でよく使われますが「既存」の読み方は「きぞん」「きそん」どちらでしょうか。
日本語として正しいのは「きそん」です。
しかしながら、25年ほど建築設計の仕事をする中で、個人的には、行政の方々も含めて「きそん」と言ったのをほとんど聞いたことがありません。言葉には希に業界特有の読み方があったりしますので、建築業界での言い方はひょっとして「きぞん」なのでしょうか。と長年思っていると、最近になって、ビデオ講義で「きそん」と言っている人がいました。(2024年現在)
正しい日本語も大事ですが、いちいちひっかからずにスムーズに意思疎通したいものですから、迷うところですが、建築業界で「きぞん」と言われている間はそれに合わせ、業界一般に「きそん」と言われてもスッと入ってくるくらいに、そういう言い方をする人もいるという認識が生まれてきてから「きそん」を使っても良いかもしれません。そして、かつては大人数に届けられる情報は文字がほとんどで、漢字にはふりがなが振られていないことが多いため、正しい読み方が伝わりにくかったかもしれませんが、現在では音声や動画での情報の配信が増えたので、正しい読み方も早く広まるかもしれません。
平屋か平家か
1階建ての建物のことを「ひらや」と言いますが、「平屋」でしょうか「平家」でしょうか。
結論は建築基準法上も、不動産登記上も、法的に正しいのは「平家」です。
地域、コミュニティ等、により癖が違うかもしれませんが、個人的に建築設計の業務で目にしてきた感覚としては圧倒的に「平屋」で、「平家」と目にすると「へいけ?」「特別な意味?」など、一瞬の戸惑いを感じたものです。字を見た場合、それぞれ「家」は住居を示し、「屋」は屋内、屋外、屋上などのように建物を示す印象がありますので建物用途に縛られない「屋」を使いたくなります。
時代と共に状況は変わってくるかもしれませんが、今のところ正式な申請届出書類では「平屋」、それ以外は「平屋」とすることが多いかなと思います。
建築物の適法性確保について
建築行為の手続について少々知識がおありな一般の方が、
「建築確認申請で確認済証が発行されなければ建築工事に着手できないし、検査で行政や第三者機関が見てくれるから、誰が設計監理者でも法律に適合したのものしか建築できないんでしょう。」
と、おぼろげながら安心していらっしゃるとすれば、それは間違いです。特に四号建築物と呼ばれる木造住宅等の小規模な建築物は、行政や第三者機関は、建物のあらゆる部分・あらゆる要素について、適法であることをチェックする義務はありません。法改正等で、チェックされる範囲や手続は段階的に増えてきていますが、「全て」ではありません。審査しなければならない部分を審査し、現実問題全ては見切れない事項の中から検査員が各自の裁量で検査して、その範囲で問題が見受けられなければ許可を出すのです。基本的には設計者・監理者に任されております。誤解を恐れず要約すれば「決められた手続を踏んでも、違法建築物に検査済証が発行されることは容易に想像できる」のです。そしてそもそも「法律」で定められているのは「最低限の基準」であることを忘れてはなりません。
追記:2025年4月から四号建築物確認の特例は縮小されるので、少し状況は変わりますが・・・。
建築士の受験資格取得に有効な建築実務の経験年数について
少し古い話ですが、平成20年の建築士法改正で、建築関連業務に従事する方が、従事している仕事の経験期間が、建築士受験資格のための実務経験期間として認められなくなったことに不服を唱える発言を目にました。
私は受験資格者がある程度適正にしぼられたと思いました。むしろ逆に実務経験期間としてとして認められる「建築に関連した業務」範囲がまだ広すぎ、また、学歴だけで受験資格を得ることも可能であるのはおかしいのではないか、と疑問があるくらいです。
そもそも建築士は、建築設計監理を行うことを認められる資格です。実際には報酬を得る形で建築設計監理を行うには、建築士としての実務経験3年以上を経た上で、講習をパスした管理建築士、若しくは、管理建築士が管理する建築士事務所に所属した者でなければならないので、設計担当者が建築士1年生でも、少なくとも3年経験している管理建築士にチェックしてもらえるというシステムになっていますが、管理建築士が本当に設計内容・手続・設計図書などをチェックするかどうかは事務所に任されています。
いずれにしても、経験の少ない者が、建築設計監理を行うことを想像すると、非常に危険な印象を受けます。
例えばかつて、普通自動車免許を取得すれば、排気量無制限で自動二輪車を運転して良いという時代があったと聞きます。今では法改正により、自動二輪車を運転するためにはその排気量区分に応じて、教習を受け、免許を取得する必要があります。今となっては、現在の制度を「厳しすぎる」と不自然に思う人は少ないのではないでしょうか。
また、ある国で、もし「この国では医師免許を取得するのに必要な経験として、『人体に関連した業務』という名称で、多岐にわたるものが認められています。」と聞いたら、その国で医療行為を安心して受けられますでしょうか。
骨折の治療しかしたことがない人に中耳炎の治療をしてもらっては困る、とか、目の治療しかしたことがない人に心臓病の投薬をしてもらいたくない、などと、むしろ、必要な経験がより細かく限定されるべきだと願わないでしょうか。
もっと言えば、関連性が高い「業種」であっても、当人が行った具体的な仕事内容・実働時間・受けた指導のレベル・能力等によって、同じ1年間に実際に習得できる経験値は、人によって雲泥の差であることも明らかです。建築士受験制度は、そもそも受験資格を得るためには「学歴」と「実務経験期間」とのバランスに、いくつかの区分が有り、それをクリアしても知識量や経験値にばらつきのある受験者を、試験によってふるいにかけるというものとも考えられ、「実務経験期間」などあてにならないと危惧しても、それだけで判断されるわけではありませんが。
他の業界でもそれぞれ問題を抱えて、常に改善が成されている事と思いますが、建築に関しては、理想と現状の格差があらゆる面で多く見受けられると感じます。